前回CADの話をしたばかりですが、
今回は手描きのスケッチについて書かれた本を紹介したいと思います。
2009年に建築文化シナジーから発行された
建築家・手塚貴晴著の『手塚貴晴の手で描くパース』です。
パースとはパースペクティブ (perspective) の略語で透視図法のこと。
建築の分野では図面だけではイメージしにくい空間の完成予想を
任意の視点から見たままに描き起こした絵を指します。
この本を読むとパース=「消失点を持つ絵」ということがよく分かります。
技術的な解説のパートは類書のそれとほとんど同じ内容なのですが、
すべての説明図が手塚氏の描くカジュアルな動きのあるスケッチなので、
透視図法の少々複雑な原理もすっと理解できるように工夫されています。
しかし、本書の肝は単なるテクニックの指南ではありません(…たぶん)。
手塚氏は、CADを使いこなそうとして逆にCADにコントロールされている
昨今の建築学生や設計業界の若い人に向けて
手を動かして考えることの重要性を切々と説きます。
「図面を10枚並べて解けなかった問題が
1枚のスケッチを描くことによって簡単に解決することはざらである。」
実際、クライアントや現場での職人さんとの打合せの中で、
長々と口で説明するよりも一枚のスケッチであっという間に
イメージの共有ができてしまう場面はよくあります。
著者も言うようにスケッチは言葉だと実感する瞬間です。
手塚氏の手による、筆のスピード感が半端ない建築パースだけでなく、
学生時代の制作課題や旅先での水彩画なども掲載されていて観て楽しめる本でした。
個人的には鉄骨構造の部分詳細パースに見入ってしまいました…。
(K)