スマートフォンでラジオを聴く人をスマラーというそうです。
そのことを、まさにiPhoneのラジオアプリ「radiko(ラジコ)」で
東京のラジオ放送を聴きながら知りました。
ラジオ業界も減少の一途をたどるリスナー人口を回復させるべく
いろいろキャンペーンを張っているようです。
このスマラーという単語はたぶん流行らないじゃないかと思いますが、
その一助になるべく数多くある良質なラジオ番組の中から、
旅好き、音楽好き、デザイン好きな人なら
きっと好きになる番組を一つ紹介したいと思います。
毎週日曜日の夜8時からJ-WAVEで放送されている
『antenna* TRAVELLING WITHOUT MOVING』です。
パーソナリティは世界約50ヶ国を旅した野村訓市さんという方。
2014年から始まった、MCのトークとリクエスト曲のオンエアで構成された
オーソドックスなラジオ番組です。
この番組を語ることは訓市さんを語ることになります。
ぼくは彼にまつわるモノをじつは番組を聴く以前からいくつか持っていました。
また、番組きっかけで集まってきたモノもあります。
それらをフックに紹介してみたいと思います。
まず番組のタイトルですが、これはもちろんJamiroquai(ジャミロクワイ)の
1996年リリースの名盤、『Travelling Without Moving』

…からではなく、
これより2年早いアンビエントミュージックのコンピ『Feed Your Head』のVol.2
に収録されてるOpikというアーティストによる同名の楽曲から取られています。

オープニングにも使われていますが、ジャングルの雨の音や子供たちの声が
サンプリングされた(アタマの栄養になりそうな)心地よい曲です。
コンピ全体としては、もう90年代のアンビエントってカンジの
湿り気のあるミニマムな音響が鳴っていて、今でも作業用BGMとして重宝します。
ついでに、番組のエンディングテーマに使われているのは、
ジャズピアニストBrad Mehldau(ブラッド・メルドー)が2002年にリリースした
アルバム『LARGO』に収録されている「Dusty McNugget」です。

このアルバムはリリース当初、Radiohead(レディオヘッド)のカバー曲が
話題になって耳にはしていたのですが、この曲は全く覚えていませんでした。
アルバム全体が遊び心にあふれていて、訓市さんらしい選曲だなと思います。
番組中でオンエアされる楽曲は年代もジャンルも様々。
スポンサーのantenna*からグリーティングとして限定配布された番組のコンピには、

Marvin Gaye、The Mamas & Papas、Lenny Kravitz,、Rufus Wainwright …などなど
様々なジャンル・年代のアーティストたちによる楽曲が
不思議な統一感をもって収録されています。
実際にオンエアされる楽曲は、1990年代のロックやポップスを起点に新旧いろいろな
音楽を聴いて育ったぼくにとっては趣味が合いすぎてこわいくらいのラインアップです。
Oasis、Sade、Everything But the Girl、Weezer、Foo Fighters、Norah Jonse…とか。
Nujabes、Zero 7、José González、Kings of Convenience、James Blake、
FEIST、The Avalanchesもかけてくれる。
洋楽だけでなくフィッシュマンズやスピッツ、大橋トリオ、EGO-WRAPPIN’
などの渋い邦楽もけっこう流れます。
番組には一度かけた曲は流さないという「鉄のルール」が存在するのですが、
リクエストが通るかどうか、リスナーと訓市さんの見えない攻防も聞きどころです。
訓市さんの肩書きは、ご自身でもおしゃられていますが、説明するのがむずかしい。
いちばんしっくりくるのが「エディター」でしょうか。
その原点となるのが、2000年にIDÉEから発行されたインタビュー誌
『SPUTNIK : whole life catalogue』です。

一つのエントリには収まらないのでさわりだけ説明すると、
訓市さんが若干26歳のとき、世界を2周する旅をしながら80人以上に
インタビューをしてまとめ上げた伝説の「生き方」カタログ誌です。
建築家では、坂茂さん、藤森照信さん、石山修さん、パオロ・ソレリ氏などが
インタビュイーとして登場しています。
絶版で現在入手困難ですが、ぜひ復刊(あわよくば続編)を希望する本です。
最後に、番組の魅力はなんといっても訓市さんの半端ない経験値に裏打ちされた
旅や音楽にまつわるトークです。
日曜の夜になじんだ落ち着いたトーンに包まれながら、
新しい週をむかえるにあたりいつも元気をもらっています。
この週末の旅が末長く続いてほしいと願わずにはいられません。
(K)